背景
最初に図を用いて破綻に至る背景を説明します。
SVBの主要な顧客はIT関連のベンチャー企業の占める割合が他の金融機関より多かったようです。
IT関連のベンチャー企業はコロナ禍が後押しする形で事業を拡大していました。
しかし、コロナが収束しその特需にも陰りが見え始めたところで
金融当局はインフレ抑制の為に急激な利上げ政策に転じました。
業績が悪化し始め資金調達に苦慮した顧客企業の預金引き出しニーズが高まったのですが、
SVBは引き出しに対して十分な現金を確保できず経営破綻したという訳ですね。
次に破綻に至るトピックをそれぞれ個別に説明します。
経営破綻に至るトピック
経営破綻に至るトピックをひとつひとつ説明します。
米金融当局の利上政策
今回の経営破綻には米金融当局が進めてきた急激な利上げ政策が関連しています。
コロナ禍での景気悪化を避けるために米政府は補助金等で市場に資金を供給していました。
これによってコロナ特需が生まれました。
コロナ特需を背景にベンチャー企業はDX推進等を支援する事業を拡大していましたが、
お金が市場にたくさん出回るようになとお金が余るようになり、物の値段が上昇します。
これにロシアのウクライナ侵攻も重なって物価上昇が加速しました。
物価上昇に歯止めをかけたい米金融当局は急速な利上げを開始しました。
金利が高くなるとお金を借りた際に金利を含めた返済合計金額が増えるので、
企業は銀行からお金を借りにくくなり、設備投資等に振り向けようという意欲が低下します。
そうすると、需要と供給のバランスで需要が低下し物の価格が下がるというような理屈です。
利上の債券価格への影響
一方で、利上げの別の側面である急速な金利上昇に伴う米国債等の債券価格の下落という面に注意が薄くなっていました。
比較的安全な資産であると言われる国債等の債券ですが、利上げで何が起きていたのでしょうか。
国債のような債券は、満期まで保有すれば基本的に額面通りの金額が返還されるわけですが、
今回のように急激に現金ニーズが高まって国債を売らざるを得ないという状況に陥った際には
どのように取引されるのでしょうか。
例えば残存期間(満期までの残り期間)は同じで、金利が異なる2つの国債があったと仮定します。
① 2年前に100円で買った10年満期の金利1%の国債(残存期間8年)
② 今100円で買える8年満期の金利4%の国債(残存期間8年)
この2つを比べると②の方が金利が高くこっちの方がお得ですから
①の方は②と同じ値段では売れず額面より安く売りださないと買い手がつきません。
100円で買って満期まで保有すれば額面通り100円返ってくるはずの国債を
今すぐお金が必要だから仕方なしに90円や80円で売ってしまう、ということですね。
そうすると本当は100円で売れるはずだったものを安く売ってしまうので、損をしてしまいます。
SVBの対応
前掲の図のように預金の引き出しニーズが高まったので、現金を確保するため債券を売って損が出ています、
ということを公表したところSVBの株価は急落しました。
預金を預けている企業は個人より預金額も大きいですから、
預金保険で保護される額を超えている部分が大きく、本当に全額返ってくるのかなと心配になってきます。
すると信用不安が広がって預金を引き出そうという流れが加速しました。
また、情報化時代の特徴でSNSで信用不安の情報が拡散され取り付け騒ぎに発展したようです。
更にSVBはその損失を株式売却でカバーしようとしたものの、資金調達に失敗し経営破綻したという流れのようです。
SVBの経営上の問題として保有する資産バランスや質に問題があったのでは、と指摘されています。
金利が低いタイミングで長期の債券を多く保有しまったという点ですね。
米金融当局の監視すり抜け
今回のように金利が急速に上昇している局面で銀行が保有している資産に占める債券の割合が高く、
かつ、顧客の預金引き出しニーズが急激に高まった場合、果たして必要な現金を用意できるか、
という部分に目が行き届かなくなっていた、というところが監督省庁としての米金融当局の課題だったようです。
まとめ
信用不安の広がりは米国政府が打ち出した預金全額保護の方針で一旦落ち着きを取り戻していますが、利上げをしている限り債券価格の下落による損失拡大という問題は残っています。
SVBの破綻後もファーストリパブリック銀行、クレディスイス等幾つか経営に不安がある金融機関の株価下落がニュースで取り上げられています。
米金融当局は以下の相反する方針の間でジレンマに陥り引き続き難しい舵取りを迫られることとなりました。
物価上昇を抑制するためには金融引き締め利上げを続けなければならない
債券価格の下落に端を発した信用不安を払しょくするには金利引き締めの手を緩める必要がある
以上、今回のSVB破綻に至る経緯に関する概要でした。
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